平成14年度 財団法人溶接接合工学振興会 第13回セミナー
「溶接品質と構造性能」〜溶接の不具合と構造の機能〜
日時 平成14年10月22日(火)13:00〜17:40
場所 東京 五反田「ゆうぽうと」7F 福寿の間
本年度のセミナーは、過去最高の160余名の出席者を迎えて、溶接接合工学振興会理事長、東京大学教授、野本敏治氏の「溶接は横糸的な学問であり、欠陥評価、維持管理について専門が全く違う観点からの意見を聞いて自分の考え方を見直す良い機会として欲しい」との開会の挨拶に始まり、今回のセミナーを企画された名古屋大学教授の宮田隆司氏から、今回のセミナーの狙いについて、「溶接不具合の構造性能への影響、不具合の許容度等について、建築、橋梁、原子力の各分野から報告を戴いた後、豊田先生から総合的、一般的な観点からの講演を御願いする」とコメントされた後、同教授の総合司会で講演会が始められた。
講演1.国内外の溶接構造における欠陥評価(Fitness for Purpose Basis)規準-BS7910,ASMEB&P.V.Code,APIRP579,SINTAP,WES2805他-
(名古屋大学大学院工学研究科 教授 宮田隆司氏)
溶接不具合の判定基準には設計、製作時の「品質管理的規準」と、構造に要求される機能に見合った「合目的Fitness for Purpose(FFP)評価基準或いは供用適合性Fitness for Service(FFS)評価基準」がある。 FFP(FFS)評価基準は、本来の機能を常に考えながら、定量的にフィードバツクして評価する考え方であり、これは供用期間中の維持管理基準であり、それを支えているのが破壊力学である。 各国規格に、欠陥評価(維持)規準(FFP,FFS規準)がどのように取り入れられているか詳細に解説された。(社)日本溶接協会規格としては、WES2805-1997が制定されており、脆性破壊と疲労損傷のみを対象とし、対象構造も応力集中部の欠陥に限定して取り扱っており、FFP(FFS)の評価基準に基づいている。
講演2.建築・鉄骨における溶接不具合と構造性能、その予測
(信州大学工学部 教授 中込忠男氏)
建築規準法の改訂(建設省告示第1464号)について、目違い、アンダーカットの規定の詳細内容、また溶接入熱、パス間温度は規定に盛り込まれなかった事等について説明された。SM490鋼をJISZ3312 YGW11とYGW18相当のソリッドワイヤを使用し、溶接入熱(12,25,40kj/cm)、パス間温度(250,350℃、連続溶接)を変化させて溶接を行い、溶接入熱の増加、パス間温度の上昇は共に引張強度、靱性を低下させることを確認している。また、実大実験により溶接部の未溶着欠陥が柱梁溶接接合部の変形能力を低下させること、梁材の力学的性能が柱梁溶接接合部の変形能力に及ぼす影響を調査して、梁フランジの機械的性質が変形能力に影響することを明らかにしている。
講演3.橋梁における溶接不具合と構造性能
(東京工業大学大学院理工学工学研究科 教授 三木千寿氏)
鋼製橋脚部(角柱、丸柱)の隅角部に発生した疲労亀裂について、首都高速道路の橋脚に発生した例について紹介され、その原因と補修方法について説明された。首都高速の約2000の橋脚の内30-40%に不具合があり、特に疲労亀裂は溶接部の不具合部から発生したものが多い。溶接部の削り込み、又はコア検査の結果、開先残し部からの亀裂発生が多く、また、意識的な溶接残しと推定されるものもあり、品質管理と技術者倫理の問題と考えている。また、円柱橋脚と矩形横梁の接合部等に完全な溶接が困難な狭隘な継手があり、技術者からのアピールがないのも、技術者の倫理問題と考えている。これらの欠陥補修で高速道路を閉鎖する場合は、その補償は「製造者責任」として対処する合意がほぼできている。
講演4.原子力発電設備溶接部の製品時検査方法
((財)発電設備技術検査協会 主幹 中田志津雄氏)
原子力発電所の第1種容器・配管の溶接部の内部欠陥は、製造時には放射線透過試験(RT)、供用中は超音波探傷試験(UT)と異なる方法で評価されており、UT技術の高度化で製造から供用中にかけて検査をUTに統一するために、通産省の委託により実験を実施した。炭素鋼及びステンレス鋼の溶接欠陥付与平板試験片でRT,UT試験、疲労試験後、欠陥の大きさと疲労強度の関係を調査し、これらの結果から、欠陥寸法の合格基準、UT欠陥判定手順、UT計測方法の推奨方法、判定値等について取りまとめ、製造時にも使用可能と提案している。すなわち、RTと同等以上のUT条件を見出し、面状欠陥、球状欠陥の疲労強度とUT信号量を関連付けた統一評価指数を構築している。これにより製造時から供用中までUTで一貫した検査を実施する事ができるようになった。
講演5.溶接品質と構造性能の向上を目指して
(大阪大学大学院工学研究科 教授 豊田政男氏)
構造品質をきめるものは溶接技術であり、「性能規定化」の流れの中で、溶接品質が問われている。溶接品質を作り出すのは、「溶接技術」と「溶接技術・技能者」の「技術と人」である。「性能規定化」は性能を詳らかにして、その実現のために技術的努力を行うことである。又、「性能規定化」の流れそのものは自己責任の重視であり、技術者の責任下で責任が取れる判断が求められている。
品質の適正化は、管理面、設置者、施工者の立場から、それぞれ社会的影響をもたらすことのないよう品質の保証すること、品質の信頼性の向上し、損傷・事故に至ることのないこと、過剰品質を無くし適正・低コスト化を図ることが重要である。
溶接技術者として、溶接品質の適正化のために、溶接品質を充分確保する努力、溶接環境の整備と適切な溶接法・溶接条件の選択、溶接工数を減少出来る手法の選択、必要品質レベルのあり方について定量的な議論、過剰品質の排除を図り適正コストを目指すべきとの技術者の基本的心構えが提示された。また、溶接品質の適正化については、単に溶接施工の合理化の観点からのみでなく、信頼出来る溶接継手を生み出す技術を誇ることで、適正化への道が開けると結論付けている。
総合討論 (司会 大阪大学大学院工学研究科 教授 豊田政男氏)
(コメンテーターの報告)
1)NKK(株)総合技術研究所 主幹研究員 栗原正好氏
規格を利用する側から、溶接欠陥と規格化へのコメントが述べられ、建築、橋梁、原子力分野に関する本日の講演と規格との関係、また、使い勝手の観点からWES,BS,API規格を対比してコメントがあった。
2)(独)物質・材料研究機構材料研究所 デイレクター 萩原行人氏
規格化の中で特にケーススタディを取り上げて、各規格中での規定を比較検討してコメントされた。
この後、本日の講演全体に関して、講演会場のセミナー出席者と各講師との活発な質疑応答、又、会場からのコメント等が述べられた。
野本敏治溶接接合工学振興会理事長の閉会の挨拶でセミナーは終了し、「紅梅の間」に移動して直ちに懇親会に入り、講師、出席者ともども技術歓談等に時を過ごし、定刻に懇親会を終了した。 以上