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平成15年度 財団法人溶接接合工学振興会 第14回セミナ-

                 

セミナ−テーマ

溶接変形防止と組立精度向上に関する新しい取組み

日時:平成151021日(火)講演 13:0017:30、懇親会 17301930

場所:東京 五反田「ゆうぽうと」 講演 7階重陽の間、懇親会 7階福壽の間

 

溶接変形をいかに極小化し、組立精度を向上させるかということは構造性能の向上や製造コスト削減の面からも古くからの重要なテーマのひとつである。特に、大形溶接構造物における設計、管理、製造の情報を統合した新しい生産システムづくりを考えた場合、シミュレーションによる変形の予測や、実際の大形部材の組立精度を確認するための迅速な寸法計測技術も重要な要素技術である。本セミナ-では、溶接変形のシミュレーション技術はどこまで進んだか、また大形溶接構造物を製造する各分野での変形防止と組立精度向上に関する取組みの現状、3次元形状計測技術の適用例などにつき、各分野の専門家に話題を提供していただき、今後の課題を探る。

 

開会挨拶     :東京大学大学院工学系研究科教授 野本敏治氏

総合討論司会:大阪大学大学院工学研究科教授   豊田政男氏((社)溶接学会会長)

メンテータ:糟谷 正氏 (新日本製鉄 鉄鋼研究所)

       高野元太氏 (三菱重工業 高砂研究所)

講演概要

1.溶接変形の予測とシミュレーション技術はどこまで進んだか(13:10-13:55) 九州工業大学物質工学科     教授 寺崎俊夫氏 溶接構造物を手直しなく高精度に組み立てるには、切断・溶接行程で発生する変形を予測し、予め対応策を講ずることが重要である。切断変形は、入熱の小さいプラズマ切断やレーザ切断の導入で減少しており、従って溶接変形・座屈の低減対策が最も重要である。要素技術としの基本継手の溶接変形、即ち横収縮、横曲がり変形、縦収縮、座屈変形の現状について解説され、溶接構造物の全体の変形については、IT技術を活用した「造船のための設計・生産システムのプロトタイプシステム(SODAS)」に溶接変形を付加した変形シュミュレータを紹介、更に溶接構造部材で生ずる溶接変形を実施工での溶接部材間のギャップを考慮したシュミレイションモデルについて紹介され、更に市販ソフトを使用して溶接変形をシュミレーションする方法についても解説された。これらのシュミレイターの登場により、溶接構造物全体の変形を抑える工法や手順が事前検討でき、施工の精度管理において製作許容誤差を指示できる等のメリットがある。これらの適用により熟練技能工の神業に頼らない競争力を維持した生産工程が実現できることを示唆された。
2.造船業が目指す高度工作精度管理技術(13:55-14:40) 日立造船梶@技術研究所      要素技術センタ−       中谷光良氏   我が国の造船業はきびしい国際環境下にあり、この危機を乗り切るために大幅な建造費の低減と効率化が求められている。建造費低減のための技術革新の一つとして、工作精度管理の高度化があり、渠中でのブロック精度が5mm以内であれば、修正作業が不要になり、建造費の5%低減に相当し、更にブロック継手の溶接作業自動化が実現出来れば建造費が5%低減すると言われている。 講演では、溶接変形予測を中心とした工作精度予測技術、ブロツクの搭載に関連した工作精度評価技術を解説された。工作精度予測技術では、平行部ブロックの面内収縮変形を効率良く予測する手法を確立し、実船に適用した例について説明し、工作精度評価技術では、三次元計測技術として、大組立にはオドライトと絶対距離計の組み合わせ、中・小組立にはデジタルカメラが熟練者の手助けになる。工作技術評価システムについては、ブロック単体精度評価システム、取り合い精度評価システムが開発されて適用されつつあるとの報告があった。これらにより高精度にブロックが製作されるようになれば、ブロック継手の自動化・ロボツト化が可能になる。
3.橋梁における溶接変形の予測と防止対策(14:40-15:20) 渇。河ブリッジ       橋梁生産本部 芝田之克氏 橋梁新規建設は縮小傾向にあるが、「良いものを安く」との視点から、耐久性を向上させ、なお安く作る方向性が明確になってきた。すなわち耐震性や耐疲労性の向上に加えて、床板との一体構造、コンクリートとの複合構造や合成構造等が新しく提案され、更に最小重量設計から合理化設計へ、仕様規定から性能規定化への流れが決定的になった。また、最終的な要求性能を明確にして、中間段階での精度管理は製作業者にまかされるようになった。これらのコストダウンを支える技術として、NCデータの信頼性向上により精度の高いシュミレーションが可能となり、製作工程ではレーザ切断により切断変形や切断誤差が低減し、製作手順の合理化が可能となった。 最近の合理化板桁では収縮量が現状している例、架設完了時の精度の例、全断面現場溶接の精度についての例等についても紹介された。
鉄道車両における溶接変形防止と組立精度向上に関する新しい取り組み(15:40-16:20 株)日立製作所 笠戸交通システム本部 高井英夫氏 鉄道車輌の変遷について、鋼製、ステンレス製、アルミ製車体の車輌構体材料・構造の比較、車輌構体の歪取り方法(点熱急冷法、プラズマ線状加熱張力付与法)を紹介、歪みの少ない車輌構体の製作法について解説された。また、アルミダブルスキン構体へのFSW法の適用についてアーク溶接との比較で説明された。FSWでは溶接後の変形が角変形では1/13、横収縮量では1/3とかなり少なく接合品質が良いこと、作業環境が良いこと等のメリットがある。また、ダブルスキンへのFSWの適用について、ワークを反転しないで接合する方法について紹介された。更に、「環境負荷の低減」、「ライフサイクルコストの削減」、「今後予想される熟練就労者人口の減少」をコンセプトに、車両の材料、構造及び生産方式を根本的に見直した「A-Train*次世代車両システム」についても紹介された。
5.大形構造物への3次元写真計測技術の適用(16:20-17:00) 石川島播磨重工業梶@技術開発本部 生産技術開発センタ−  井本治孝氏   大型・複雑形状の構造物の生産性向上のためには不可欠な大型構造物への三次元計測技術の適用について現在実用化されている計測手法(ゼオドライト、トータルステーション、レーザースキャン、レーザートラッキング、写真計測)の内容を解説された後、講演者が新しく開発された写真計測システムについて、原理、撮影準備、写真撮影等の手順を詳細に解説された。更に、大型構造物への写真計測の適用例については、アンローダー、電波望遠鏡の現地計測等について解説された。本計測方法は、一眼レフタイプの300万画素以上の市販のデジタルカメラを使用する方法であり計測システムを安価に構成できるものである。

コメンテータ講演概要

「鋼材、溶接材料を用いた溶接変形低減について」 糟谷 正氏         (新日本製鉄 鉄鋼研究所) 溶接変形低減への試みとして材料面からのアプローチを試みている。即ち、変形抵抗がゼロとなる温度である力学的溶融温度に注目し、これを高めることで高温度域での弾性範囲を広くし、発生する塑性歪み(角変形)を低減することを期待して、MoNb添加鋼材を開発し、溶接材料については冷却過程での変態膨張を用いるために変態開始温度を低く設定した材料を開発した。小型試験体で効果を確認し、板厚16mm、幅3m、長さ19.4mの実構造物に適用した結果、角変形が50%程度低減する結果が得られた。
「デジタルマニュファクチャリング時代の溶接変形予測の重要性」  高野元太氏        (三菱重工業 高砂研究所)

日本の製造業を取り巻く環境と、製造業の対応について、需要構造の急激な変化、ニーズの多様化、グローバルコンペティションの進展、IT活用の欧米からの遅れ、中国、韓国、台湾等の低賃金製造力等の課題に対応出来る製造技術向上が望まれている。そこでものつくりのスピードアップ、安く早く作る手法としてデジタルマニュファクチャアリングが指向されている。 デジタルマニュファクチュアリングでは、設計品質の向上・開発期間短縮・コスト低減を達成する必要があるが、溶接変形を予測による溶接作業の効率化、溶接品質の確保が重要で、更に変形シュミレーション技術と連携して活用することが重要である。

総合討論とコメント(17:00-17:30)

総合討論司会 東京大学 大学院工学系研究科 野本敏治氏

 

閉会挨拶 大阪大学大学院工学研究科教授 豊田政男氏

 

 懇親会「福寿の間」(17:30〜19:00)

     参加者相互の懇親を図ると共に、総合討論の場とは異なる和やかな雰囲気のなかで 

     各参加者のご意見をいただきたいと思います。

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